何のために書くのか?書から学ぶ仕事観・人生観
私は3年ほど前、人とのご縁もあって書道を始めましたが、書道をやりたいと思うきっかけは別にありました。これといった趣味がないことが自分の中で長い間引っかかっていました。ある時「一切の制約がないのであれば何がしたいか?」と自分に問いかけたときに出てきたのが書道たったのです。
書道は小学5年生くらいまで習っていました。当時は書道が特別好きではなく少し嫌々ながら通っていたと記憶していますが、長い年月が経つと変わるものです。好きではなかった書道を「やりたい!」と思うのですから、人の心はわからないものです。
また、何かをやり始めることは、予期せぬことが起きる可能性が高まるものです。あくまでも趣味でリスタートした書道ですが、半年ほど経った頃、ひょんなことからある先輩経営者の方に「書を書いて欲しい」と依頼を受け、なんと自分の書を売るという経験をさせてもらいました。
これは紛れもなく事実。嘘ではないので、今では「代表取締役」だけでなく、「書道家」の肩書も名刺やオンラインの背景画像などで使用しています。
冒頭で「ご縁もあって」と書きましたが、書道をやりたいと思い始めた3年前、当初は自宅近くで書道教室を探していました。そんな時期にたまたま野球繋がりで出会った同い年の栗原正峰くんが代表を務める風草舎という書道グループに加わることになったのです。
この書道グループは恐らく他の書道教室とは一線を画しています。枠にとらわれず自由に書く。かといって乱雑に扱うのではなく、むしろ自分と向き合い、自分だけの線や跳ね、構成、黒(墨)と白(紙)のバランス、印の押す位置などもしっかり考え、書を通して自分を表現することを大切にしています。
そんな風草舎ですが、風草舎主催の展示会も数年に一度開催しています。そこでは自分の書に自分で値付け販売し、実際にお金を得る。そして得たお金でまた書に向き合う。書道は紙や墨、額装など、なんだかんだお金がかかるのですが、書を継続していくサイクルも大事にしています。
このような経験を通し、見る人に何を伝えたいのか、自分の書にはどれほどの価値があるのかなど、普通に生活しているだけでは絶対に得られない、貴重な経験をさせてもらっています。
桑原蘇風さんの個展ではじめて味わった感覚
そんな風草舎ですが、先日副代表の桑原蘇風さんが、代官山で個展を開催しました。期間中、私も足を運び実際に書を見たのですが、その時ある感覚を味わいました。
展示された書を見ているうちに気づいたら笑顔になっていたのです。優しさが滲みてくるような書で、心が和らぐというか、温かくなるというか、幸せを感じたのです。力強い書や、何かを訴えてくるような書を見て勇気をもらったり、元気をもらうような経験はありましたが、幸せを感じたのははじめての経験でした。
たまたま私が立ち寄った時は他にお客さんがいなかったので桑原さんとゆっくり話をすることできたのですが、桑原さん自身が「これまでの書と明らかに質が変わりました。今まではカッコよく書こうという意識が働いてしまっていたんですけど、今回は見てくれる人のことを思って書きました。」と話してくれました。
最後の言葉を聞いて「これだ!」と思いました。今までは矢印が自分に向いていたのが外に向かい、そのことが書の印象を大きく変えたのだと。素直に素敵だなと思いました。
私自身、3年前に書道をはじめた時は、自分の字があまり好きではなくもっと上手くなりたいと思ってはじめました。その思いがなくなった訳ではありませんが、今は自分にしか書けない書を目指し練習しています。でもそれでもダメで、まだ矢印が自分にしか向いていない、見る人に対する意識が全く足りていないことがはっきりしました。
書を通して何を伝えたいのか、見てくれる人に微々たるものでもプラスの影響を与えられるようにならなかれば、やっている意味がないとの思いを強くしました。
書展に出品し賞を取りさらに上を目指すために書くのか、自分にしか書けない書を通して人に喜んでもらうために書くのか。私は今、後者の方が圧倒的に優先度が高くなりました。
見ていて心が優しくなれる、笑顔になれる。そんな書は素敵です。上手く書くことより、誰か一人でもいいから喜んでくれる人がいるのなら、その人のために書く。そんな姿勢で私も書いていきたいと今は思っています。
これは仕事でも人生でも同じだと思っています。私の場合はホームページを作ることが仕事ですが、これも一緒。見た目が素晴らしいものを作っても、訪れてくれるユーザの課題解決につながらないのなら意味がないと考えていることに通じます。
見た目のヴィジュアルデザインだけが良く一部の人たちから評価されるだけのホームページ。ユーザの課題を解決しクライアントのビジネスに貢献するホームページ。私は前者には全く興味がないので、当然私は後者を目指し続けます。
人生においても多くの場面で矢印を外に向ける回数が多くなればなるほど、豊かな人生が待っていると信じています。
結局、本質を追求すると、さまざまな場面で共通項があることが分かります。書から学ぶことは多いです。そして書は奥深いものだと、最近ようやく分かってきました。これからも自分に向き合って、人に喜んでもらえるような書を目指し続けたいと思います。
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